週40時間制へ移行した場合、削減された時間に値する労働力を補わなくてはいけないという問題が発生する。その場合の対策として、有効な方法の1つとして、パートタイム労働者の活用がある。
1.時短分の労働力としてのパートタイム労働者
時間短縮分の労働力を確保しようとした場合、正規従業員、パートタイム労働者では、支払う給与に大きな差が生じる。つまり、正規従業員が既存の労働時間を働いた場合、これまでは法定内労働であったものが、法定外労働、つまり割増賃金の対象となる労働へと変化し、その部分の労働は残業扱いになるのである。
【正規従業員が残業した場合】
・給与30万円の人が、月30時間の残業をした場合。(月総労働時間184時間)
時間外手当=300,000÷184×1.25×30時間
=61,141円
また、時間外手当の増加に伴い、労働保険料(労災保険・雇用保険)、社会保険料の増加も考えられる。
【パートタイム労働者を雇用した場合】
・正規従業員が処理しきれない部分の業務処理(30時間分)を行った場合
時給900円のパートタイム労働者が月30時間の労働
※愛知県平成9年度平均時給=894円
賃金=900円×30時間
=27,000円
であり、パートタイム労働者を雇い入れた場合には、一人当たり約34,141円の差が生じることになり、結果として30人規模の事業所の場合、1ヶ月に1,000,000円近い差が生じるのである。
2.戦力としてのパートタイム労働者
一人の正規従業員に支払うべき経費を考える場合、給与だけではなく、現金外給与も考慮する必要がある。こうした現金外給与として真っ先に挙げられるのが、社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)・労働保険料(労災保険料・雇用保険料)であろう。
【社会保険】
パートタイム労働者は、勤務形態の特殊性から、健康保険及び厚生年金保険の適用について以下の様な一定の条件が付けられている。
勤務日数と勤務時間の両方が、一般の従業員の4分の3以上の時は、健康保険・厚生年金保険に加入する必要がある。
これはいいかえれば、勤務日数と勤務時間の両方が、一般の従業員の4分の3未満であれば、加入の義務はなくなるということであるが、もし従業員が社会保険に加入した場合、その社会保険料は、従業員・事業主との折半であり、従業員から徴収する保険料と同額の保険料を会社も納めることが必要になり、非常に大きな負担を強いられることになる。
【労働保険】
また、雇用保険の加入の条件は以下の通りである。
・週の所定労働時間が20時間以上である。
・一年以上引き続き雇用されることが見込まれる。
・収入が90万以上であると見込まれる。
その従業員がもしこの3つの条件を満たす勤務体系になっているのであれば、雇用保険に加入する必要が出てくるのである。しかし、これもまた基準を満たしていなければ加入の義務はない。
※労働保険の内、労災保険については勤務時間の多少に関わらず保険料の支払いが必要となる。
【社会保険、雇用保険適用についての費用試算】
正規従業員を1名雇い入れた場合と、社会保険、雇用保険に加入しないパートタイム労働者を3名雇い入れた場合の費用試算を行うと以下の様になる。
A.正規従業員を1名雇い入れた場合の経費
給与 230,000円
健康保険料 12,750円
厚生年金保険料 26,025円
雇用保険料 2,250円(一般の事業:事業主負担1000分の7.5)
労災保険料 1,800円(一般の事業:事業主負担1000分の6)
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計 272,825円
B.パートタイム労働者を3名雇い入れた場合の経費
給与 153,900円(@900円×57時間×3名)
労災保険料 923円
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計 154,823円
差額 118,002円(約43%減)
このシミュレーションでは週40時間労働制での1ヶ月の最大労働時間(171時間)を正規従業員が1名で勤務した場合とパート労働者3名でワークシェアリングを行った場合の比較を行ったが、なんと1ヶ月で118,002円の人件費の節減(率に直せば43%の減少)に繋がるという結果が出た。これで如何に正規従業員の雇用コストが高くなっているかがお分かり頂けるだろう。
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