雇用契約から委任契約あるいは請負契約への転換
Updated on 9/14/97

1.あらまし
 いわゆる雇用契約で労働者を雇い入れる場合は労働基準法により規制がかかるが、委任契約あるいは請負契約により他人の労働力を使用する場合は相手方は労働者ではないので労働基準法の規制はかからないのが原則である。労働者を使用する歳に雇用契約ではなく、委任または請負の契約を結ぶことは、40時間制で割増賃金増加を回避する手段として考えられる。また、高騰し続ける法定外福利費についても節減できるであろう。
 しかし、実際は単に委任契約あるいは請負契約であるので労働基準法の範囲外になるとはしていない。契約の形式は雇用契約ではないが、実態は使用従属関係があり労働者として雇用されていると判断されれば労働基準法が適用されることになる。100%に近い形で使用従属関係のない委任契約または請負契約を設定しないことには労働基準法の規制は回避できない。
 使用従属関係が認められる場合とは次の項目について総合的に判断されることになるのが通例である。
a.労働の対償として賃金が支払われている。
b.業務を遂行するに使用者の指揮命令が為される。
c.勤務時間または業務遂行の場所を使用者より管理あるいは制約が為される。
d.業務を遂行するにあたり、必要とする経費が使用者の判断に委ねられ、使用者から支給されている。

 よって、委任契約にしろ請負契約にしろ使用者と相手方の関係は、少なくとも、
a.労働の内容としての賃金でなく業務の成果で支払われていること。
b.業務の遂行が相手方の全て裁量に委ねられていること。
c.時間的、場所的制約がなく自由であること。
d.必要経費が相手方の判断に委ねられ自己負担していること。
などが条件にあげられる。

※委任契約とは民法第643条「委任は当事者の一方が法律行為を為すことを相手方に委託し相手方がこれを承諾するに因りてその効力を生す。」請負契約とは民法632条に定義されて「請負は当事者の一方が或仕事を完成することを約し相手方がその仕事の結果に対してこれに報酬を与えることを約するに因りてその効力を生す。」

2.雇用契約から委任契約あるいは請負契約への転換しやすい職種
a.委任契約としては外交販売員
 営業職従業員などは一人一人と委任契約、または、代理店契約などを行い労働基準法の規制から回避することは可能である。専門職従業員についても委任契約の形態の一つである委嘱契約(顧問契約)の形態をとり、独立開業させることもできるが、その業務に開業資格(弁護士、税理士など)が伴う場合があるので、開業資格の必要ない職業に限られる。
b.請負契約としては下請負人として
 建設業での建設作業員については能力のある者に対しては下請負人として、建設事業の都度、請負契約をもって使用することが可能である。設計士などの技術専門職従業員に対しても仕事一つ一つについて請負契約をもって使用することも可能である。

3.委任契約、請負契約へ雇用契約従業員を転換させるときの注意
a.雇用契約を使用者一方から解約の申し入れをこなうことは解雇となるので、解雇予告の問題、不当解雇の問題は付き物である。相当注意を払う必要がある。
b.雇用契約としての身分が終了するので退職金などの支払義務が生ずる。退職の計算は会社都合による割増規程があればそれに該当する。
c.被用者保険としての健康保険、厚生年金保険などはなくなる。労災保険も何かの形で特別加入しなければ労災補償はなくなるし、雇用保険も資格喪失するので社会保障の面では今までより相当不利になる。相手方の理解が必要となる。
d.所得税も今まで給与所得だったのが事業所得となるため、比較的有利な給与所得控除が受けられなくなる。
e.従業員にとっても今までの賃金制度よりは魅力のある報酬制度を要しなければ納得できない。 などがあげられる。

4.出来高制、歩合制にかかわる時間外手当
 忘れてはならないのは、労働基準法の適用を受ける労働者である場合は、出来高制あるいは歩合制による賃金でも労働基準法第37条の解釈によると、割増賃金の対象になるということである。具体的計算方法は以下の通りである。
 「その賃金算定期間内において出来高払い制その他の請負制によって計算された賃金の総額を当該賃金算定期間内における総労働時間で除した金額に延長した労働時間数(もしくは休日労働時間数)を乗じた金額に法定割増率(2割5分または3割5分増し)を乗じた金額。」
 さらに雇用契約による労働者としての身分と委任契約(あるいは請負契約)としての身分と二重の身分を持つ者であっても、一部でも労働者としての身分を持つ者であるので委任契約による出来高報酬等に対しても割増賃金の対象になってきます。たとえ税務上、委任契約による報酬が事業所得として取り扱われるものとしても、割増賃金の対象となるので注意が必要である。
例、不動産販売外交担当員
(A)雇用契約により賃金を固定給として月10万円。
(B)委任契約により販売実績価格の5%を報酬。
 ※販売に関わる必要経費は自己負担となっている。
  税務上は(A)を給与所得、(B)を事業所得として扱うことが可能。
  労基法上は(A)、(B)いずれも賃金と解して割増賃金の対象とする。