人材流動化時代における時価主義人事制度の必要性
Updated on 9/12/2000

【要旨】
 雇用流動化が今後急速に進む中で、企業は自社の競争力の源泉であるコア人材の確保が重要な経営課題となっています。そのためには自社の人事戦略を従来の時間軸から時価軸に変え、貢献度の高い人材にはその直に見合った処遇を行うことが不可欠とされています。

【内容】
 従来のわが国の労働政策は「雇用維持」に重点が置かれていましたが、近年、この基本方針の見直しが行われ、今後は「雇用流動化」が急速に進むことになります。これは労働政務次官のコメントで明確に表明されているところでもありますが、同時に国の政策の裏返しである助成金制度の状況を見ても明らかです。

 つまりわが国の従来の助成金制度は「景気変動や産業構造の変化により雇用調整を行わなければならない企業に対し、給与の一部を助成することにより雇用の維持を図る」という雇用調整助成金を中心に構成されていました。しかしこの雇用調整助成金は今後縮小されることが決まっており、これに変わってここ数年、急速に拡充されているのが新規・成長分野雇用創出特別奨励金や中小企業雇用創出人材確保助成金を代表とした新規事業展開により人材を採用する企業を支援し、雇用流動化を通じ労働市場全体で雇用の確保を図ろうとするタイプの助成金制度です。これだけでも第2次産業での余剰労働力を、労働市場を整備することによって流動化させ、今後成長が見込まれる第3次産業で雇用確保を図っていこうとする労働省の意図を見ることができます。また昨年の労働者派遣の原則自由化(これまでわが国でほとんど見られなかった職種別賃金相場の形成)や2001年に導入が予定されている確定拠出型年金制度の導入(ポータビリティによる転職の促進)も雇用流動化を進める大きな要因となると考えられます。

 こうした人材流動化時代においては企業の人事制度も従来の年功序列的な運用ではなく、より貢献度に応じた社員の現在価値に基づく適正な処遇を行うことが欠かせなくなっています。わが国の従来の人事制度は基本的に年齢や勤続といった時間軸での運用がなされていました。よって貢献度の高い、言い換えれば時価の高い人材であるにも関わらず、年齢が若いという理由で、本来あるべき水準よりも低い報酬水準に止まっていることが多く見られます。かつては雇用や賃金水準に関する情報が閉ざされていたため、こうした人材が外部に流出するリスクはそれほど高くありませんでしたが、雇用の流動化が進み、またインターネットにより雇用に関する情報が氾濫するようになっては、市場価格よりも低い報酬で雇用を続けるということは非常に難しくなっています。一方、こうした人材は企業の今後の成長を実現する競争力の源泉たるコア人材であり、儲かる会社になるためには絶対に手放してはならない人材群であります。よって今後、企業の競争力を維持し、向上させるためには時間軸での人事処遇を改め、時価(貢献度)をベースにした人事処遇を行っていく必要があります。ちなみにこうした考え方は欧米でも「performance based pay(貢献度に基づいた報酬制度)」と呼ばれ、急速に広がりを見せており、人事報酬制度のグローバルスタンダードとなっていくと言われています。

 なお具体的な報酬制度の設計としては、サポート、一般、マネージメントなど職務の期待成果(貢献度)に応じたグループ(職群)を設定し、それぞれの職群毎に報酬の下限額と上限額を定め、その範囲の中で報酬を支給することが通常です。



名南人事賃金システム研究所 社会保険労務士 大津章敬