ポイント制賞与制度の設計
〜業績賞与制度導入の具体的手法〜
Last updated on 11/21/97

結論
a)賞与制度の基本は業績配分である。
b)基本給連動型賞与制度は全く意味がない。
c)賞与制度は原資を先に確定し、一定のルールで配分する「ポイント制」を採用することが適当。
d)業績賞与制度を採用する場合には、従業員に毎月組織の業績状況を伝えることが重要。

1.なぜ基本給と連動させるのか?
 賞与の計算方法として現在多くの企業で採用されている方式が「基本給連動型」と呼ばれる「賞与算定基準日現在の基本給に支給月数を掛けて計算する」という方法です。しかしこの方法は全く意味がありません。というのは一般的に基本給は従業員の生活を直接支えるものですから通常は生活給的(言い換えれば年功的)に運用されています。これは例え職能給であっても同じです。ですからこのように年功序列的に運用されている基本給に支給月数を乗じて計算される賞与は必然的に年功に流れてしまいます。賞与の基本的な性格が成果配分であるとすれば明らかに不合理な計算方法であります。また給与制度はその時々の経営環境や人事政策に応じて柔軟に決定される必要があります。しかし賞与や退職金の計算が基本給と連動していては、給与体系を変更することすらままなりません。


2.ポイント制賞与制度とは?
 こうした問題点から賞与制度は最低限基本給とは非連動にし、成果配分的な運用を行うことができる体制を構築する必要があります。そのための具体的な方法が「ポイント制賞与制度」です。この制度の基本的な考え方は「賞与支給原資を確定し、それを一定のルール(ポイント配分表)で配分する」というものです。
 このポイント制賞与制度での賞与支給額決定のプロセスは以下の通りです。
a)賞与原資を確定する
 ポイント制賞与制度の最大のポイントは賞与の原資を一定のルールで配分するというものですから、まずは配分可能な賞与原資を確定する必要があります。
b)ポイント配分表を設計する
 次に原資を配分するためのルールを作る必要があります。この配分のルールの視点は以下の3つです。
1)能力ポイント
 社内の能力等級制度に対応する部分。通常はこの能力ポイントを中心に賞与を配分することになります。もっとも近年の人事諸制度の流れは能力基準から仕事基準にシフトしてきており、能力ポイントよりも次の役割ポイントを重視する傾向が強まってきています。
2)役割ポイント
 社内の役割等級制度に対応する部分。役割等級制度についてはこちらをご参照下さい。もし役割等級制度が存在しない場合にはいわゆる職位(部長、課長など)についてポイントを配分することになります(職位基準で設計する場合には能力等級制度と役職名が重複して混在している場合に注意が必要)。
3)勤続ポイント
 賞与の配分に勤続年数という年功的な要素を見る場合には勤続ポイントを設定し、勤続年数が長ければ賞与もいくらか高いという設定を行うことになります。先にも書いたように現在多くの企業で採用している基本給連動型で運用されている賞与制度は年功に流れる傾向が強いことから、実務的にはこの勤続ポイントを設定しないと現在支給されている賞与金額から大幅に賞与金額が減少してしまう、という状況が発生します。よって勤続ポイントをいくらか設定する必要性は高い、ということができます。
c)従業員全員の人事評価を実施する
 人事評価を行い、従業員全員の評点を出します。人事評価制度についてはこちらをご参照下さい。
d)従業員全員のポイントを計算する
 b)で設計したポイント配分表に人事評価結果を当てはめ、従業員全員のポイントを計算します。
e)賞与原資を従業員全員合計ポイントで割り、ポイント単価を計算する
 「a)で決定した賞与原資」を「d)で算出された従業員全員のポイント合計」で割ることによって1ポイント当たりの単価を計算します。
f)各人のポイントに単価を掛け戻し、賞与額を計算する
 「d)で算出された従業員各人のポイント」に「e)で計算されたポイント単価」を掛け戻すことによって、賞与額が計算されます。


3.ポイント制賞与制度の事例
 ポイント制賞与制度の仕組みは文字で読んでもなかなかイメージがし難いものですから以下で事例を挙げて説明します。
【条件】
1)ポイントの設定
 能力ポイント:別表の通り評価結果による開差は10%、1等級と5等級の開差は250%とする。

S 120 144 180 240 300
A 110 132 165 220 275
B 100 120 150 200 250
C 90 108 135 180 225
D 80 96 120 160 200
  1等級 2等級 3等級 4等級 5等級
 役割ポイント:別表の通り評価結果による開差は10%、GL(グループリーダー)とGM(ゼネラルマネージャー)の開差は500%とする。
S 12 36 60
A 11 33 55
B 10 30 50
C 9 27 45
D 8 24 40
  GL M GM
 勤続ポイント:勤続1年につき1ポイントとする。
2)従業員の状況
 従業員数は4名で各人の人事評価結果、能力等級、役割等級、勤続年数は以下の表の通りとします。
氏名 評価結果 能力等級 役割等級 勤続年数
佐藤 5等級 GM 35年
影山 4等級 25年
小山 3等級 GL 15年
大津 1等級 なし 5年
3)賞与原資
 今期賞与の原資は300万円とします。
【手順】
a)賞与原資を確定する
 この事例の場合は300万円です。
b)ポイント配分表を設計する
 条件1)の通り。
c)従業員全員の人事評価を実施する
 条件2)の通り。
d)従業員全員のポイントを計算する
 従業員のポイントを別表に当てはめて計算すると以下の通りになります。
氏名 能力P 役割P 勤続P 合計P
佐藤 275 55 35 365
影山 240 36 25 301
小山 150 10 15 175
大津 100 0 5 105
  合計 946
e)賞与原資を従業員全員合計ポイントで割り、ポイント単価を計算する
 この場合賞与原資が300万円、従業員全員のポイント合計が946ポイントですから、1ポイント当たりの単価は
300万円÷946ポイント=3,171円となります。
f)各人のポイントに単価を掛け戻し、賞与額を計算する
 よって各人の今期賞与額は以下の通りとなります。
氏名 決定賞与支給額
佐藤 1,157,415円
影山 954,471円
小山 554,925円
大津 332,955円
合計 2,999,766円

4.ポイント制賞与制度の特徴
 基本給連動型の賞与制度の場合はまず支給月数を決定し、その支給月数に基本給を乗じることによって賞与を計算します。そしてその結果として賞与の支払い可能原資を上回れば、改めて支給月数を調整するという結果として原資を調整する方式でしたが、ポイント制の場合ははじめから賞与原資を確定し、それを配分するという方式ですから基本給連動型とは全く正反対の考え方になっています。


5.ポイント制のメリット
a)業績賞与制度に最適
 まず賞与原資を確定し、それを一定のルールにしたがって配分するという方式のため、決算賞与など業績配分の方法としては最適です。
b)賞与の配分を政策的に行うことができる
 例えば年功的な要素を多くしたいのであれば勤続ポイントを、能力主義的な要素を強めたいのであれば能力ポイントを、役割評価的な運用を強めたいのであれば役割ポイントを多くすることによって賞与の配分を政策的に調整することができます。また制度の切り替えの際にも、当初は勤続ポイントの比重を高めに設定し、その後数年かけて能力ポイント及び役割ポイントの比重を高めることによって制度のソフトランディングを図ることができます。
c)正規分布を取る必要がない
 基本給連動型の賞与制度は評価結果が上方偏向を起こすと賞与原資が膨らんでしまう為に、評価結果の正規分布を維持する必要性があります。そのため、たとえば本来はB評価であったとしても無理矢理評価結果を変更しC評価にするという様な状況が見られます。しかしこれでは人事管理の根幹をなすはずの人事評価制度が骨抜きになってしまいます。しかしポイント制では仮に全員がS評価であったとしても相対的にポイント単価が低下するだけですから、正規分布を取る必要はありません。


6.業績管理の必要性
 成果主義はやればやっただけの報酬(賞与)が配分されるという状況を作り出すことによって、社員のプラスの成果を引き出そうとするものです。よって最低限、従業員には現在の業績をわかる状況にしてあげることが重要となります。
 業績状況を従業員に伝えることなく、期末に「業績が悪かったので賞与はなし」というのでは明らかに従業員に対する会社の裏切り行為ですし、反面いざ蓋を開けてみたら非常に業績が好調でその成果配分である業績賞与が多く支給されたとしてもその賞与は従業員にしてみれば「棚からぼた餅」であって何の動機付けにも繋がりません。よって業績賞与制度を導入する場合には、毎月の業績検討会を開催し、今現在の業績状況(賞与配分原資)をできれば部署別に、できない場合は全社単位で、従業員に伝えることが重要になります。
 人事制度としての業績管理の手法については近日中に追加いたします。