3.文字による基準づくりの限界
Updated on 4/21/98

 中小企業さんにおいて人事制度を整備するうえで一番よく起こる問題は「作ったけれども使えない」ということです。例えば『苦心して幹部で人事評価表を作った。そして1、2回やってみた。ところがどうもおかしい。本当に給与を上げたい人と、もう上げたくないと思っている人との差があまり出ない、もしくは結果が異なる。」ということがよく起こります。そして結果としてこの人事評価表は使われなくなるか、使ったとしても経営者は「この評価ではいかん!」と直感的に思い、評価結果を最終段階で変えてしまうことが多いのです。また上司も、実は「本当はこれでは評価できない」と密かに思いつつも評価は上司の義務の一つと思って淡々と点(順位)をつける作業を行います。当然、結果は社員に満足にフィ−ドバック(還元)されず、単に形式的に上司が点をつけるだけのものになります。ここまでは本当によくある話です。おそらく人事評価を制度として導入したことのある企業であれば、すべてが経験した道ではないでしょうか。しかしこれはやむを得ないことなのです。評価基準の文言を満載した評価表とその結果出てくる点数で評価をしようとするしくみ自体が持つ宿命と言えます。  つまり、評価基準を文字や数値で表すには限界があるのです。微に入り細に入り作り込んだ評価基準であればあるほどこの限界が顕在化します。面白いことに世の中は逆で、詳細で精緻な制度が「すばらしい事例」としてよく紹介されています。人事評価を整備する際、最初に考えるのは「納得のいく評価制度にしよう」ということです。この納得を追求すると大抵、評価は文字による詳細化の方向に走ります。しかし文字表現を誤解のない内容にしようとすればするほど細かい事柄まで明示し、内容が硬直的になる一方で、組織や人間の行動、経営環境は日々変化していきます。この環境変化に対応しようとして更にいろいろなことを盛り込もうとすれば必ず無理が生じます。
 そして徐々にこのことに気づき、「人事評価表の内容はシンプルにすべきだ」という動きになります。すると今度は逆に「評価基準が曖昧だ」という声が出て完全にジレンマに陥ります。こうして人事評価表は「詳細」と「シンプル」の間をウロウロするか、もしくは実質棚上げとなっていきます。この循環からは「何らかの基準を作り、そのバーを超えたか超えないか」という考え方自体を捨てない限り、永遠に抜けることはできないでしょう。

Back   Next