ストックオプションの概要

 4月24日の日本経済新聞の記事によると、商法改正により、公開企業が主に
用いる可能性の強い自己株式方式は6月1日、未公開企業が主に用いる可能性
が強いワラント権のみ発行方式は10月1日をもって、解禁される見通しです。
 しかし、未公開企業向けのストックオプション税制についての詳細は現時点
ではまだ明らかになっておりません。
 現時点でのインセンティブプランについて検討してみます。
 
 1.自己株式方式ストックオプション
    従来は、以下のような法的障害があり、公開会社はストックオプショ
   ンそのものの発行をすることができませんでしたが、
    ・役員に譲渡する目的の自己株式取得の禁止(商法210条)
    ・従業員に譲渡する目的で取得した自己株式の保有期間は6ヶ月以内
     であり、かつ、その量は発行済株式の3%以内(商法210条の2)
    ・株主総会の特別決議に基づき新株の有利発行ができる期間は6ヶ月
     以内(商法280条の2第4項)
    ・公開会社の役員は6ヶ月以内の反対売買により得た自社株の売買益
     は会社に返還しなければならない(証券取引法164条)
   自民党案では、以下のようになり、公開企業でストックオプションその
   ものの発行が可能になるようになっています。
    ・従業員だけではなく、役員に譲渡する目的の自己株式の取得も可能
    ・役員・従業員に譲渡する目的で取得した自己株式の保有期間を10
     年内に延長、かつ、その量も発行済株式の10%以内まで緩和
    ・株主総会の特別決議に基づき新株の有利発行ができる期間を1年以
     内に延長
    ・証券取引法の整備により、公開会社の役員の6ヶ月以内の自社株売
     却益の会社返還義務から当該ストックオプションを除外
 
    また、税務においても、自民党税調では、当然のことながら権利行使
   時の給与所得総合課税をを繰り延べ、売却時に課税する方法を適用する
   考えですし、新株交付ではなく市場から買付けた公開旧株式の交付です
   から、売却時の課税も源泉分離課税が選択できるようにするのではない
   かと見られています。
 
    しかし、未公開企業がこれを利用するためには、まだ多くの問題点が
   残ります。
    ・誰から取得するか
      公開企業は市場から買い付けたり、公開買付を行うことができま
     すが、未公開企業では既存の個別株主から買い取る以外に方法があ
     りません。
    ・いくらで取得するか
    ・いくらで譲渡するか
      公開企業の場合は株価は1つですので、問題はありません。しか
     し、未公開企業の株式の買取価格、譲渡価格をいくらにするかは永
     遠の課題です。
 
 2.ワラント権のみ発行方式ストックオプション
   従来は、画期的な新技術やノウハウ・アイデアを持つスタートアップの
  段階の企業で、通産大臣の「特定新規事業」として認定を受けた企業のみ
  がオプションを付与することができましたが、ワラント権のみの発行を認
  めることにより、すべての未公開企業が同様のオプションを付与できる予
  定です。
   しかし、一昨年の新規事業法ストックオプション税制がこれに適用され
  ると、ストックオプションとしての価値が無くなります。
    ・公開後に権利行使して取得しても、売却時には売却金額の1.05%
     の源泉分離課税が選択できず、売却益の26%の申告分離課税がか
     かる
    ・年間500万円以内しか権利行使ができない
 
 ※現状の新規事業法によるストックオプションの流れ
  a.基本的事項の決定(株主総会特別決議)
     オプションの権利行使価額
     オプションを付与する役員、従業員
  b.決議通りの付与対象者へ付与
     非課税
  c.株式公開
  d.オプションの権利行使
  e.株式の売却
     申告分離課税強制適用(源泉分離課税選択不可)
  適用要件
   イ.株主総会特別決議より2年間は権利行使不可
   ロ.権利行使時の発行価額の合計額は年間500万円以内
   ハ.発行済株式数の1/3を超える大株主やその親族は不可
 
 ※自民党案によるワラント権方式ストックオプションの流れ
  a.基本的事項の決定(株主総会特別決議)
     ワラント権の権利行使価額
     ワラント権を付与する役員、従業員
  b.決議通りの付与対象者へ付与
     課税関係不明
  c.株式公開
  d.ワラント権の権利行使
  e.株式の売却
     源泉分離課税の選択ができるかどうか不明
  適用要件
   イ.発行済株式数の10%以内とする
   ロ.行使期間は10年内とする
 
 3.成功報酬型ワラント権付き社債発行方式
    役員・従業員に給与又は賞与として譲渡する目的で発行するワラント
   債及びワラント権は、通常のワラント債及びワラント権にかかる規制
  (権利行使時期、権利行使価格等の制限)が適用されませんので、擬似ス
   トックオプションとして用いることが可能です。また、権利行使するま
   で会社がワラント権を預託しますので、公開までは第三者への譲渡を禁
   止できます。
 
 ※成功報酬型ワラントの流れ
 a.基本的事項の決定
    ワラント権の権利行使価額
    ワラント債の発行価額(ワラント権の権利行使価額×発行株数)
    ワラント権の権利行使期間
    ワラントを付与する役員、従業員
 b.ワラント債の発行
    引受会社へワラント債を発行
    引受会社の規定無し
  イ.証券会社(系列投資会社、VCを含む)への発行の場合
     利点 ・ワラント権の売却価額で税務上問題が生じたケースは過去
         ない
        ・行使価額の決定方法で融通がきく
        ・公開ルール上での失敗はまず考えられない
     欠点 ・主幹事証券会社を決定しなければならない
        ・エクイティの見返りなしに引き受けてくれるかどうか疑問
  ロ.独立系VC、コンサルティング会社への発行の場合
     利点 ・ワラント権の売却価額で税務上問題が生じたケースは無い
        ・行使価額の決定方法で融通がきく
        ・主幹事証券会社の決定を先延ばしできる
     欠点 ・エクイティやコンサルティング等の見返りを要求される
        ・見返りが無い場合には発行手数料が高い
  ハ.関係会社への発行の場合
     利点 ・発行手数料の支払が不要
     欠点 ・ワラント権の売却価額について税務上の問題が発生する
         可能性がある
        ・行使価額の決定方法について税務上の問題が発生する可能
         性がある
        ・公開審査上、審査証券会社から問題にされる可能性がある
 c.ワラント権の全ての買い戻し
    適正な「ワラントバリュー」での買い戻し
 d.ワラント権の付与
    当初決定通りの付与対象者へ付与
    ワラント単価×付与数が給与所得となり課税対象
 e.ワラント債の買入償却
    3カ月後に社債引受者が保有している社債部分を全額繰上償還
 f.株式公開
 g.ワラント権の権利行使
    権利行使期間内であれば公開後の権利行使も可能
 h.株式の売却
    公開後の権利行使であれば公開後であればいつでも源泉分離課税選択
   可能
    公開前の権利行使であれば公開後1年内は申告分離課税
 適用要件
  イ.同族関係者への付与は不可
  ロ.ワラント権のプール不可
    (必要に応じてタイムリーに付与したり、長期間にわたり分割して付
     与することができない)
 
 ※税務上の問題点
   昨年、成功報酬型ワラントの株式公開ルールが定められましたが、税務
  上では上述したような不明確な点が多くあります。
   現状の通常ワラントの場合は、ベンチャーキャピタル等を利用して行使
  価格の2%ないし1%のワラントバリューでワラント権を購入しており、
  過去税務上問題になったケースはありません。しかし、成功報酬型ワラン
  トの場合は、会社から従業員に給与等として付与する(法人が損金処理す
  る)のですから、税務上客観的な評価額で買い戻すことが必要になると考
  えます。
   また公開ルールでは、成功報酬型ワラントの行使価額やワラント債を引
  き受ける「第三者」に制限はありません。しかし、関係会社等を「第三者」
  としてワラント債を引き受けさせて、ワラントを2%とか1%で買い戻し
  た時に、この価格がはたして客観的であるかどうかはが問題になると考え
  ます。
   このように現状の税制では未公開段階でのワラントバリューの評価、通
  常ワラント権と成功報酬型ワラント権の区別等の取り扱いがまだ明確に確
  立されていません。
 
   私見になりますが、そもそも成功報酬型ワラントはストックオプション
  が認められていなかったため開発された手法です。ストックオプションが
  解禁になれば、成功報酬型ワラントの必要性はなくなるはずです。今後の
  税務上の取り扱いは
   ・現状のストックオプション税制の縛りをはずし、現状の成功報酬型ワ
    ラントのルールを適用することにより、成功報酬型ワラントの必要性
    をなくす
   ・成功報酬型ワラントを通常ワラントと分離して現状のストックオプシ
    ョンのような縛りをかける
  のどちらかで統一される方向にあると考えます。(後者の場合には非同族
  役員・従業員向けのインセンティブ付与手法が、同族株主の事業承継対策
  用の通常ワラント手法より税務上不利になるという矛盾が再び発生します)
 
 
 この件に関するお問い合わせは杉浦恵祐(名南経営)までお願いします