(1)調査の趣旨
バブル崩壊等の後の日本経済の将来についての不透明感、団塊世代の高齢化による管理ポストの増加、事務管理部門の肥大化等を背景に、多くの企業で取り組まれている「間接部門の効率化」について
1.企業の間接部門における雇用量とそこで働く労働者の働き方に与える影響
2.企業の組織変革、人事労務管理制度との関連
等を調査
(2)調査結果のポイント
・90%を超える企業で、間接部門の減量や効率化のための何らかの施策を実施
・本社の部課数、正社員数の減少により今後も更に進む組織のスリム化、小さな本社化
・ルーティンワーク、ライン業務部門でより進展している本社の減量化
・効率化の取組により、「社員のコスト意識の徹底」「総額人件費の削減」「上位下達のスピードアップ」などの成果
・効率化実現企業で実施の割合が高い「業務量に基づく要員数の算出」
・仕事量の増大、業務範囲の広がり、責任の増加など、正社員の負担が増える傾向
(3)提言
間接部門の効率化には、明確な目標方針に基づき、個々の企業の条件に適応した組織改革や人材活性化を図ることが必要
1 調査研究の概要
(1)近年、我が国の企業は、国際競争の激化や厳しい経営環境を背景に、既存の事業を見直し、不採算部門の整理や成長部門へのシフトなど事業の再構築、及び企業組織の改革などに取り組んでいる。このような状況の下、特にここ数年、製造業のみならず、あらゆる業種において、事務・管理部門等の間接部門の効率化が多くの企業の重要な課題となっているが、一方で、間接部門における雇用量や労働者の働き方に大きな影響を与えると考えられる。
そこで、労働省では、間接部門の効率化が企業の間接部門における雇用量とそこで働く労働者の働き方に与える影響、間接部門の効率化と企業の組織変革、人事労務管理制度との関連等について把握することを目的として、(財)未来工学研究所への委託により、「間接部門の効率化等の雇用への影響に関する調査研究」(座長佐藤博樹東京大学教授)を実施した。
(2)アンケート調査については、大企業を中心に341社に対し平成9年10月末〜12月中旬に実施し、ヒアリング調査については、主要業種の大企業8社を対象に実施した。
2 調査結果
(1)企業が間接部門と考えているのは、本社の総務、経営企画、財務・経理、人事労務・教育・福利厚生など本社組織の主な部分
本社の総務、経営企画、財務・経理、人事労務・教育・福利厚生の各部門については、いずれも90%以上の企業が間接部門と考えている。また、その他の本社の部門についても、営業販売、研究・開発、生産技術をのぞいては、いずれも70%以上の企業が間接部門と考えている。(図表1)
(2)厳しい経営環境を背景に組織のスリム化の取組が進む平成不況後の経営状況については、「経営改善は続けているが回復にはほど遠い」が最も多く39.0%、次いで「経営改善努力が実り、回復基調にある」が34.6%となっている。(図表2)
最近5年間で、減量や効率化のため何らかの取組を行った企業は90%を超えており、具体的な施策としては、「電子メールやグループウェアの導入」「業務予算の削減」「正社員の削減」が多くなっている。(図表3)
また、減量や効率化のための取組を進めるに当たり、「具体的な数値目標を決めた(37.5%)」、「社長・役員を加えた推進組織を作り全社的に進めた(35.8%)」、「横断的なプロジェクトチームを作って進めた(33.4%)」企業が多い。(図表4)
一方、効率化の阻害要因としては、「適正人員を確定できない(46.6%)」「明確な目標や方針にかけ、漠然としたかけ声にとどまっている(39.0%)」などが多くなっている。(図表5)
減量の施策としては、「自然減」が最も多く73.2%、次いで「関連会社への出向・転籍」が53.5%と多い。(図表6)
本社の部と課の数は、5年前(平均部19.6課38.2)と比べ、現在は少なくなっており(同部18.3課35.8)、望ましいと考える数はさらに少なくなっている(同部15.8課31.5)。本社の管理階層数についても減少する傾向にある。5年前は平均で7.3階層であったのが、現在は7.0階層、望ましいと思う階層数は6.0階層となっている。現在の人員の過剰感については、現在の人員が必要な要員数に比べて「多い」と回答した企業が40.2%、「一致している」が37.9%となっている。(図表7)
過去5年間の本社の正社員の減少率(-1.97%)は、会社全体の正社員の減少率(-1.63%)に比べやや高い程度だったが、今後5年間の予想では、本社正社員の減少率(-7.81%)が会社全体の正社員の減少率(-1.44%)をかなり上回っており、小さな本社化が進むことが予想される。(図表8)
(3)正社員の間接部門に属する比率の高さが経営状況の悪化に関係しているとは言えない
正社員の間接部門に属する比率別の売上高経常利益率の伸び率(91-96年度)は、間接部門比率46%以上で平均2.4%、26-45%で-0.7%、16-25%で1.0%、15%以下で-0.9%となっており、必ずしも正社員の間接部門に属する比率が高いから直ちに経営状況が悪化しているとは言えない。(図表9)
(4)間接部門の効率化の課題は、「情報伝達の迅速化」「人材の活性化」「コスト削減・収益性の改善」「組織・人のフレキシビリティ」「少数精鋭化」「組織の活性化」
「間接部門の効率化」とは、単一的な概念ではなく、その概念を掘り下げると、例えば「情報伝達の迅速化」「人材の活性化」「コスト削減・収益性の改善」「組織・人のフレキシビリティ」「少数精鋭化」「組織の活性化」という6つの異なる課題があげられる。企業ではこれらのうちいずれか、あるいはこれらのうちの複数の項目を方向性として認識し、取り組んでいると考えられる。
(5)本社の減量化は、企画・戦略、調査等の部門よりもルーティーンワーク・ライン業務部門でより進展
本社の企画部門等とライン部門等で、効率化と減量化の実現企業の比率を比較してみると、効率化実現企業比率では大きな差はないが(企画部門等56.6%、ライン部門等61.8%)、減量化に関しては差が大きくライン部門等で減量実現企業比率が高くなっており(企画部門等37.8%、ライン部門等53.3%)、本社の減量化は、企画部門等に比べライン部門等でより進展している。(図表10)
(6)間接部門と効率化の取組にはある程度の成果が見られるとともに、採用方針にも影響
効率化の成果としては、「社員のコスト意識の徹底(59.9%)」「総額人件費の削減(59.0%)」「上位下達のスピードアップ(55.4%)」などが顕著に見られる。(図表11)
効率化が採用に影響を及ぼしたと多くの企業で考えているが、その具体的な内容としては、「業務の必要に応じて雇用する臨時、パート、派遣社員、契約社員の活用をする(59.8%)」「事務作業など付加価値の比較的低い仕事は非正社員に任せていったり業務委託してゆくので正社員の採用を減らす(41.9%)」「少数精鋭化するために正社員の採用人数をできるだけ減らす(39.6%)」が高い割合となっている。(図表12)
(7)間接部門において、業務量に基づく要員数の算出を行っている企業は多くはないが、その中では効率化実現企業で実施している企業が多い
「直接部門」と「間接部門」とを分けて要員管理している企業は58.4%、分けて管理していない企業は41.1%である。(図表13)
間接部門における業務量に基づく要員数算出については、「現在間接部門全体で実施している」のは34.3%にすぎず、「一部の部署で実施」が18.5%、「一部の業務で実施」が10.0%、「実施していない」企業は35.8%である。(図表14)
しかし、効率化が実現できた企業では、それ以外の企業に比べ業務量に基づく要員数を算出していることが多い。(図表15)
(8)外部労働力活用志向企業では短期的なコスト削減では成果が上がっているが、残った社員の負担が増加するなど、効率化の取組により生じた問題点も多い
外部労働力活用志向企業では、総額人件費の削減、社員のコスト意識の徹底など、短期的コスト削減については成果が上がったとしている。実際に業績についても、経常利益率平均の伸び率(91-96年)を見ると、0.46%であり、内部労働力活用志向企業の0.02%に比べわずかであるが高くなっている。(図表16)しかし、効率化の取組により生じた問題点については、多くの項目で、外部労働力活用志向企業の方が内部労働力活用志向企業よりも該当すると回答した割合が多い。特に、「基幹社員がルーティーンワークまで負担せざるを得なくなった」(外33.3%、内12.7%)で、その差が大きくなっている。(図表17)
(9)目標管理制度など人事労務管理制度の変化も最近多く見られる
過去5年間の目標管理制度の導入・拡充の有無については、「新規に導入した」企業が29.3%、「拡充した」企業が27.9%、「導入・拡充していない」企業が41.1%となっている。(図表18)
目標管理制度の運用上の問題については、「目標の数量化が難しい」が73.8%と最も高く、次いで「目標達成が個人の努力によるものか、経営環境や周囲の応援によるものか不分明である」が42.6%、「目標達成と人事考課との連動のさせかたが曖昧、不明確」が42.1%となっている。(図表19)その他の人事労務制度の改定は、「成果にもとづいた処遇の強化」で56.3%の企業が実施したと回答しており、次いで「フレックスタイム制の導入(26.4% )」「出向制度の拡充(24.0%)」「抜擢人事の導入(23.8%)」「職能資格制度の改正(23.5%)」が多くなっている。(図表20)
(10)人事部門と各部門レベルとでは、効率化の状況や必要要員数に対する認識にギャップ
効率化の進展状況について、人事部門(本社全体について回答)と各間接部門の認識を比較すると、人事部門で効率が上がったと考えている企業では、各間接部門レベルでもある程度同様の回答をしているが、人事部門で効率が上がらなかったと回答している企業では、各間接部門レベルで逆に効率が上がったと考えていることが多いなど、両者の間にギャップが見られる。また、業務量に基づく要員数の算出をしている企業を見てみると、全般的に各部門より会社全体の間接部門について回答している人事部門の方が、業務量に基づき算定した必要数よりも、実際の人員の方が多いと考える傾向にある。(図表21)
(11)業務量増大、責任や権限・裁量範囲の広がり等、増える社員の負担
実際に間接部門で働く正社員の負担の最近の変化として、実労働時間、仕事量、業務範囲、裁量と権限の程度、責任の大きさの状況について、管理職、一般社員別に見てみると、一般社員で実労働時間が短くなる傾向があるものの、その他については、全般的に正社員の負担度が大きくなっており、特に営業企画部門においてその傾向が強く見られる。効率化との関係では、実労働時間については営業部門を除き、効率化した企業以外の企業の方が長くなっているが、仕事量、業務範囲、裁量・権限、責任については、全般的に効率化した企業の方がそれ以外の企業に比べ正社員の負担度が大きくなる傾向が見られる。
(12)明確な目標・方針に基づく戦略的効率化が必要
間接部門における工数管理や具体的目標の設定は、実際に実施するのは難しいものの、効率化の推進に相当な効果があると考えられることから、可能な限り個 別企業において取り組むことが望まれる。
(13)個々の企業の条件に適応した組織改革や人材活性化策が必要
間接部門の効率化の具体的取組としての組織改革や、それに伴う人材活性化のための取組が最近多く見られるが、企業形態や人事制度は、その企業の業種、規模、企業風土などにより望ましい姿は多様であると考えられることから、自社の特徴に合ったものを慎重に検討した上で実施していくことが肝要である。
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