平成10年版労働白書(骨子)
〜労働者の個別性、自律性を重視した働き方の仕組みへの転換を〜
Updated on 7/2/98

 高度成長期から安定成長期に移行して四半世紀が経過する間に、我が国は2度の石油危機、1985年以降の円高、バブルの発生と崩壊といった経済的なショックを経験した。また、国際化、経済のサービス化、情報化の進展は労働力需要構造に大きな変化を及ぼし、他方、労働力供給面では、高齢化の進展、女性の職場進出、高学歴化等の構造変化が進むとともに、若年層を中心に就業意識・行動も大きく変化してきている。こうした中で、労働市場において、中長期的に産業別・職業別就業構造の変化や労働移動の増大、失業率の高まり等の変化が起こるとともに、労働条件や生活水準が着実に向上する中で、労働者の働き方について、就業形態の多様化、職業生涯の多様化、個別化といった動きがみられている。 今後、21世紀に向けて、我が国の経済構造が一層急激に変化する中で、その活力を維持していくためには、働く意欲と能力のある労働者が、そのニーズに応じた多様な雇用・就業の場で、自らの能力を十分に発揮して働けるようにしていくことが大切であり、そのためには、長期雇用慣行を維持しつつ外部労働市場の機能を強化して雇用の安定を図るとともに、働き方自体について、労働者の個別性、自律性を重視し、多様な選択肢のある仕組みに変えていくことが重要である。そこで、「平成10年版労働経済の分析」(平成10年版労働白書)では、第T部で平成9年を中心に労働経済の動向を分析し、第U部で中長期的にみた働き方と生活の変化の問題を扱った。

第T部 平成9年労働経済の推移と特徴
第1章 雇用・失業の動向 (年後半以降厳しさが増していった雇用失業情勢)
 1997年(平成9年)の雇用失業情勢は年前半は厳しいながらも改善の動きがみられたが、年後半以降厳しい状況となり、1998年3月には完全失業率が既往最高の3.9%を記録するなど、更に厳しさを増していった。1997年の有効求人倍率は、7〜9月期まではおおむね横ばいで推移していたが、有効求人の減少と有効求職の増加幅の拡大から10〜12月期以降低下し、1998年1〜3月期には0.61倍と1986年10〜12月期以来の水準となった。雇用者数は7〜9月期以降景気が足踏みから一層厳しさを増したことを反映して、その増加幅を大きく縮小させ、特に男性で増加幅縮小が大きく、1998年1〜3月期には減少に転じた。
 完全失業率は、1〜3月期の3.3%から10〜12月期に3.5%、1998年1〜3月期には3.6%と期を追って上昇し、1997年平均でも3.4%と1996年に並び既往最高水準となった。特に10〜12月期以降の完全失業率の上昇には、企業の業況感の悪化による雇用需要の減退が影響している。

第2〜4章 賃金、労働時間等の動向(4〜6月期以降前年を下回った実質賃金と減少に転じた総実労働時間)
 実質賃金は、消費者物価の上昇幅の拡大から4〜6月期以降前年を下回った。また、労働時間は、週40時間制の全面適用を背景に所定内労働時間が減少したことな どから減少に転じ、年間総実労働時間(事業所規模5人以上)は初めて1,900時間を下回った。

第U部 中長期的にみた働き方と生活の変化
第1章 安定成長期の経済・雇用情勢(経済構造等の変化)
 安定成長期の働き方や勤労者生活の変化は、国際化、サービス化、情報化の進展などの経済構造の変化、高齢化、女性の職場進出、高学歴化といった労働力供給面の変化、労働市場や労働条件に関する制度の変化を背景に進展した。(就業構造の変化と労働移動)
 産業別就業構造は、サービス業を中心に第3次産業の構成比が高まっており、職業別にはホワイトカラー化が進んでいる。また、転職率は、パートタイム労働者比率の上昇等を背景に中長期的に上昇しているが、常用労働者、特に男性中高年齢層といった基幹層では労働移動は活発化していない。(上昇傾向にある失業率)
 完全失業率は長期的に上昇傾向にあるが、男性中堅層、世帯主等の失業率の上昇は小さく、若年層、男性高年齢層の上昇が著しい。また、均衡失業率の上昇に加え、最近は需要不足失業率が高水準にある。(雇用安定のための課題)今後は、高齢化から少子・高齢化へ変化するので、その対応が重要である。また、企業の雇用維持努力を前提としつつ、雇用面のセイフティネットの充実と労働力需 給調整機能の強化が重要である。

第2章 働き方の中長期的変化(就業形態の多様化)
 常雇比率は、女性の常雇比率低下と女性雇用者割合の上昇により、中長期的に緩やかに低下している。短時間雇用者比率は大幅に上昇し、特に女性では3分の1を占めている。就業形態の多様化は、若年層、女性中年層及び男性高年齢層で進んでいる。また、自営業主、家族従業者や家内労働者が減少する一方、派遣労働などの新しい就業形態が増加している。(企業の採用戦略と人事管理の変化)企業の新規学卒者、若年者重視の採用傾向は変わっていないが、パート、アルバイトや中途採用の活用等採用戦略が多様化している。高齢化、高学歴化の中で管理 職比率は全体としては高まっているが、学歴別・年齢別にみると低下しており、特に団塊の世代以降に昇進の遅れがみられる。また、人事管理制度の多様化、個別化 の動きがみられる。(キャリア形成、職業能力開発から退職における変化)
 管理職、事務職等では相対的に人事異動の周期は短く、専門職、技術・研究職では長く、その違いは大きくなっている。また、管理職のキャリアを広げようとする動きがある。職業能力開発では、企業、労働者とも自己啓発を重視している。平均勤続年数は、男女とも長期化しており、高年齢層になるほどその程度が大きい。また、企業、労働者とも長期雇用に対する期待は大きい。60歳以上定年が普及してい る一方で、退職制度の柔軟化も進んでいる。(賃金、労働時間)
 賃金はこれまで年功的な運用がされてきたが、団塊の世代を含む層から見直しが進んでいる。近年では賃金制度に年俸制などの能力・実績重視の動きがみられるが、 従業員は評価の正確性等に不安を持っている。賃金の規模間格差は高齢化・高学歴 化の要因を除くと縮小傾向にある。労働時間は、労働基準法の改正を契機に、1988年以降大幅に短縮している。(福利厚生、職場環境)法定福利費の伸びは著しいが、法定外福利費は伸びが小さく、規模間格差が大きい。福利厚生は、ニーズの多様化に対応して多様な個別の施策へと変化し、また効 率化が図られている。死傷者数は全体では減少傾向であるが、死亡者数は近年横ばい傾向にある。心身の疲れや職場ストレスを感じる者の割合が高まっている。(働き方の変化の方向と今後の課題)
 働き方の個別性、自律性重視の流れの中で、長期雇用を維持するためにも、働き方の仕組みを変えていくことが重要であり、働き方の自己選択と評価制度等の新しいルールの整備が重要である。また、中高年齢層への配慮が必要である。新しいルールの整備等には、労使の努力が基本的に重要であり、政府の役割も重要である。

第3章 生活の中長期的変化(消費行動の変化)
 勤労者世帯の収入及び消費支出は、1975年以降増加傾向にあるが、1990年代に入り、収入の伸びは緩やかで、実質消費支出は横ばいである。平均消費性向は保険や 住宅ローン等の増加による家計の自由度の低下に加え、バブル崩壊後の不透明感の増大により、低下を続けている。貯蓄は増加傾向にあり、生命保険などの増加が著しく、負債は住宅・土地のための負債を中心に増加し、中年層で大きく増加している。(生活の変化)週末は週休2日制の普及もあり仕事時間が減少し、自由時間が増加している。有業女性の生活時間構造をみると、未婚から結婚、出産とライフサイクルが進むにつれて大きく変化し、家事時間の増大等により男性との差が大きくなっている。(労働者の意識の変化と生活の充実に向けての課題)今後一層の生活の充実のためには、我が国経済と雇用に対する不透明感の払拭と高齢社会における具体的な生活のビジョンが必要であり、また内外価格差の是正・縮小による消費者物価等の低廉化や自由時間の充実を図るほか、企業中心のライフスタイルの転換のため、社会や企業の仕組みの変革と併せて労働者自らの発想の転換が必要不可欠である。

まとめ
 今後、21世紀に向けて我が国は新たな構造改革期を迎えており、経済社会の構造変化は一層急激になるであろう。これに伴って、労働者にも大きな変化がもたらされることが予想され、それだけ将来の生活や雇用に対する不安感が強まっている。したがって、一方でこの不安感を払拭しつつ、変化に柔軟に対応して日本経済の活力を維持していかなくてはならない。そのためには、基本的には長期雇用慣行を維持しつつ外部労働市場の機能も強化することにより雇用の安定を図るとともに、労働者の働き方を、従来の画一的・集団的なものから、個人個人の置かれた状況、意識、将来設計、能力などに応じて自ら選択し、かつ自律的に働くものへと変えていく必要がある。これには、企業はもとより労働者の努力の積み重ねが重要であり、行政の支援も必要不可欠である。

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