確定拠出型年金制度の基礎知識
Updated on 1/9/99

 確定拠出型年金は、毎月積み立てを行う掛け金の額をまず定め、従業員が自身の判断で運用先を選択し、その結果によって将来の給付額が決まる年金制度で、我が国でも2000年の導入に向けて積極的に検討が進められています。現行の日本の退職金制度や企業年金制度は通常、運用成績にかかわらず報酬や勤続年数を基に一定の支給額が決まる「確定給付型」と呼ばれますが、この確定給付型年金制度は、近年の低金利による運用悪化や転職者や企業倒産の増加と行った社会情勢に対応できていないということもあり、確定拠出型への注目が高まっています。ここでは今後の退職金・退職年金制度の構築を進める上では欠くことのできない確定拠出型年金制度の仕組みについて簡単に解説します。

1.アメリカの401(K)プラン
 日本での確定拠出型年金制度導入のお手本とされているアメリカの401(K)プランは、1982年に登場して以来、人材の流動化が激しいコンピューター、流通業界などを中心に急速に普及し、今やアメリカの代表的な年金制度になっています。そもそも米内国歳入法401条k項において制度が定められているために401Kプランと呼ばれますが、資産は年率2桁の勢いで伸びており、現在は加入者数2,500万人、資産残高は1兆ドルに迫っていると言われています。

 制度の仕組みとしては、図表「401(k)プランの仕組み」のように従業員は各自に設定された従業員勘定に所得税課税前に掛金を拠出し、企業は通常従業員拠出額の範囲内で掛金を追加拠出(損金参入)します。従業員は会社が用意する複数の金融商品から、自らの責任と判断において選択を行い、掛金を運用します。従業員が転職する際には、転職先の企業が401(k)プランを運用している場合にはそのプランへ、していない場合には個人退職勘定(IRA)に移管します。


 課税関係としては従業員と企業の資金拠出額の合計が年間3万ドル以内、または従業員の給与の25%以内など一定の条件を満たしていれば、拠出金についても運用収益についても非課税とされ、将来給付を受けるときに初めて課税されることになります。一方、税法や企業規則が定めた年齢(通常は59.5歳)に達しなかったり、生活困難など真にやむを得ない事情が存在しない場合に資金を引き出すと、引き出し額に対して10%のペナルティタックスが課せられます。これは企業が従業員に対して401(k)プランを貯蓄としてではなく、あくまで退職後の所得保障として利用することが求められているからです。

 日本では公的年金の財政悪化に加え、確定拠出型年金の資金が株式市場に流れることによって、アメリカで401(k)プランが相場上昇の原動力になったように、低迷する株式市場のテコ入れに繋がり、景気浮揚策になるという読みがあると言われており、政府・自民党も導入論議を積極的に進めていると言われています。

2.確定拠出型年金の特徴
 確定拠出型年金制度の特徴を確定給付型年金制度との比較で説明すると図表「確定拠出型年金と確定給付型年金の対比」のようになります。最大の相違点は、従業員および企業が拠出した掛金の運用先については、従業員自身が自己責任で選択し、投資のリスクを負うことになる点でしょう。これに対し確定給付型年金の場合には、金利の低下などにより運用が予想を下回った場合には、企業が追加の拠出をしなければなりません。また確定拠出型年金には従業員ごとに設定された勘定(従業員勘定)があり、従業員が転職する際に、転職先の企業へ受給権と年金原資を移管(ロールオーバー)できるという特徴(ポータビリティ)があります。
図表「確定拠出型年金と確定給付型年金の対比」

 確定拠出型年金確定給付型年金
運用リスク従業員が負担企業が負担
従業員勘定ありなし
ポータビリティありなし
在職中の引き出しありなし
従業員の掛金拠出ありなし
従業員の投資先選択ありなし
年金数理計算不要必要
未積立債務のB/Sへの計上不要必要
3.メリット・デメリット
 確定拠出型年金には図表「確定拠出型年金のメリット・デメリット」のとおり、企業側・従業員側の双方にメリットとデメリットが存在します。
図表「確定拠出型年金のメリット・デメリット」
 メリットデメリット
従業員・自分の判断で投資先を選択でき、積極的な資産運用を行うことができる
・ポータビリティが確保されており、転職時に不利にならない
・保有資産の金額や投資先などについての透明性が確保されている
・運用リスクを負い、将来の受給額が不確定
企業・運用リスクが回避できる
・年金数理計算などの運営の事務負担が少ない
・未積立債務の企業B/Sへの計上が不要
・従業員に対する投資教育などが必要
 まず従業員側のメリットとしては、自分の判断で投資先を選択することによって積極的に自らの資産運用を行うことができる点や、転職時に自分の持ち分を他の会社のプランや個人退職勘定(IRA)に非課税で移管できるという点が指摘できます。現行の日本の企業年金・退職金制度は終身雇用を前提に設計されており、途中で転職すると不利になることが多くみられましたが、この点については確定拠出型年金の導入により、大幅に解消されることでしょう。一方、投資先選択についての自己責任原則から、将来の年金給付額が約束されていないというデメリットがあります。

 また企業側にとっては、年金の運用リスクを負わないというのが最大のメリットになっています。将来の年金給付額があらかじめ定められている確定給付型年金の場合は、計算基礎率を前提に所要掛金を計算し、積立金を積み立てていくことになります。よって実際の運用利回が予定利率を下回ったり、また予定していたように新規加入員が増加しないなどの事情が発生した場合、掛金の追加負担を行い、不足金を補う必要があり企業収益を圧迫する材料になる訳です。しかし確定拠出型年金の場合にはこの予定利率と実際の運用利回りの乖離による追加掛金の支出ということが起こり得ないという大きなメリットがあるのです。また年金数理計算が必要ないため事務負担が少なくてすむことなどが挙げられます。一方、デメリットとしては制度のリスク、金融・投資に関する情報、資産配分モデルなどについての従業員教育が必要とされる点が指摘されるでしょう。

4.我が国における確定拠出型年金の導入
 本稿執筆現在では確定拠出型年金の導入を検討してきた自民党が労働、厚生など四省に制度案の作成を指示し、99年8月までに制度案を立案し、2000年度中に導入する予定になっています。しかし、掛金の運用残高が非課税枠を超えないように管理する仕組の整備や非課税枠の設定など様々な課題が残されており、未だ流動的な状況です。

 しかし人事制度設計という観点から見れば、確定拠出型年金は従来の確定給付型年金に比べ非常に多くのメリットを持っており、今後、退職金制度・退職年金制度を検討する際にはかならず1つの選択肢として用意しておく必要があると思われます。